てゐるのが目に入つた。たつた今何となく家の中から出て来たらしくいかにも用がなげにあたりを見まはしてゐたその男は、近づいて来る房一の姿に気づくと大袈裟に手を額にかざして日をよけながらぢろぢろと眺めはじめた。それはまるで、この道路が彼の私有物で、そこを案内もなしに闖入《ちんにふ》して来る見ず知らずの男を咎めにかゝつてでもゐるかのやうであつた。
 年は五十過ぎ位、見るからに小柄な貧弱きはまる痩せつぽちだが、何となく自分の身体を大きく見せようと絶えず心を配つてゐるらしい足の踏ん張り方をしてゐた。手足も、顔の皮膚もうすく日焼けがし、乾いて、骨にくつついてゐた。が、頭髪はそれとは反対に驚くほど真黒で、きちんと櫛目を入れて分けられ、鼻下にはやはり念入りに短く刈りこんだ漆黒の髭をはやしてゐた。それは何かちぐはぐな印象で、中農の地主にも見え、町役場の収入役のやうでもあり、又どこかに馬喰《ばくらう》臭いところもあつた。だが、一貫して現はれてゐるのは、小柄の者がさうである場合特に目立つ、そして見る者の咽喉のあたりを痒《かゆ》くさせるやうな、あの横柄《わうへい》さであつた。
 房一には間もなくそれが雑貨店の主
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