いに持込んで来た提灯のためにかへつて前とは逆に明さが行きわたり、土手に肩をいからして立つてゐる男を下から照し出してゐた。
「あ、神原の喜作さんだ」
 と、突然房一の肩を押へて云つた者がある。いつのまにか、練吉が傍に来てゐたのだ。彼は酒の酔ひもさめたと見えて、興奮し、そのために稍|強《き》つい、輪郭のはつきりした顔立ちになつて、一心に土手の方を注視してゐた。
 土手に立つてゐる男は房一には見覚えのない男だつた。神原喜作だと聞いてもすぐには誰だか判らなかつたが、やがて、それが彼の借家してゐる鍵屋の分家の当主で、ふだんはどこかの農学校の教師をしてゐてめつたに帰つたことのないといふ、あの喜作だと思ひあたつた。それにしても、どうしてこんな所へひよつこり姿を現したものだらうか、冬休ででも帰つて来たのだらうか。――
 だが、その間にも土手の押問答はつゞけられた。
「消防演習だ? ふむ、よからう。そんなら訊くが、かうしてみんな集つて騒いでゐるのは何のためだか知つてるか」
 相手は何か答へたらしかつたが、房一のところへは聞きとれなかつた。今まで静まりかへつて事の成行を見まもつてゐた人だかりが急にどよめい
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