含んでゐた。
「をかしいから笑つたのだ」
「なに?」
と、下の男は睨み上げた。
「をかしいからとは何ごとだ。火事だといふから手伝ひに来たんぢやないか、そして溝に落ちたのが何がをかしいんだ」
相手はしばらく黙つてゐた。だが、場所が高いのと、柵の中にゐるためか、落ちついて答へた。
「こゝの消防演習をやつたのだ。そんなに騒ぐことはない」
「なに、消防演習?」
と、下の男は形をなほした。
この押問答がはじまつて以来、ちやうどそれが高張りの下の明さのためもあつて、あたりの注意はそこに集り、急に静まり、ために、そこが宛かも上と下との代表点といつた際立ちを現してゐた。男のうしろにはたくさんの人がつめかけてゐた。
あたりには急に殺気立つた空気が感じられた。恐らく、暗やみで途惑《とまど》ひし、右往左往したやり場のない興奮がはけ口を見出しかけたからだらう。男は、はじめの滑稽な様子にひきかへ、今案外な落ちつきと鋭い怒気を見せてゐた。多分、たゞならぬ空気を察したのだらう、構内ではいつのまにか焚火が消され、高張提灯も取り去られて、柵をへだてて二人の男が対峙してゐる所にだけ一つ残つてゐたが、下方ではしだ
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