、次には聞えにくいほど鳴り、そして急に勢よくつゞけさまに鳴り出した。ちやうど、それは焔の燃える様子と緩急を合せたやうに、まざまざと目に見せるやうに響いた。
 この町に一体火事なんて、いつあつたらう。たしか、三年前に一度、そして去年の春さきに小火《ぼや》が一度、それも藁火が離納屋に燃え移つただけのことで、それだのに殆ど町中がいや近在からも山を越して人が集り、提灯《ちやうちん》が集り、大変な騒ぎだつた。めつたにないどころではない、他のことは忘れても、この殆ど珍重すべき火事は、そのあつた年も、場所も火元の蒼白な顔も、ありありと覚えこんでしまはれるのだつた。
 二階の部屋だつたので、障子を開けてみたが、空はどこも真暗らで所々にうすく星が光つてゐた。その静かな黒い拡がりがかへつて不気味だつた。すぐ下の通りではどの家も表の戸を開け放つたまゝ道路に出てゐたので、屋内からの明りが方々から路面に流れ、立つて空を見上げてゐる人達の半身を照してゐた。黒い人頭がざわざわと右に行き左に行きしてゐた。所々の家の切れたあたりは驚くほど暗かつた。鐘はまだ鳴つてゐた。それは今、さうはげしくはなかつた。だが、冴えてはつき
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