りと、一所だけで鳴つてゐた。多分、左手のずつと先きあたりらしかつた。
どこかで、「営林署だ」といふ声が聞えた。そして、黒い人影は左手へ向けてぞろぞろと走つて行つた。何か叫び声のやうなものがその方で起つてゐた。
五
房一は下駄をつゝかけて外にとび出してゐた。何気なく腕時計をすかして見た。七時半だつた。まだそんな時間か、とびつくりして考へたのをおぼえてゐる。すぐ傍を、人が駆け抜けてゐた。房一も走り出した。どういふものか、さつきうす暗がりで見たぼんやりした小さい白い時計の文字盤が頭の中で見えてゐた。走り出した方は真暗らな畑中の路だつた。今、房一の右にも左にも誰とも判らない人が一杯で、腕や肩がぶつかつた。小谷も練吉もいつしよに駆け出して来た筈だつたが、どこにゐるか判らなかつた。
恐しく暗い。目の前に小河の水面がぼんやり光つて流れてゐた。橋を渡ると、そこは営林区署出張所の材木置場で、その向ふに稍小高い山を背負つて出張所の建物が立つてゐた。そこだけに、高張提灯がいくつか並び、傍で小さい焚火が燃え、疎《まば》らな人影が立つて照し出されてゐた。他には火らしいものはどこにも見えない。
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