とを聞き、することを眺めてゐた。その小ぢんまりとした体躯からは傍に立つてゐる房一を想像させるものは見られなかつたが、足の短い、肩の張つた房一の身体の特長から道平の方に目をやると、ふしぎと何かしら似てゐた。それはたゞ小さくて、皺が寄つてゐるだけだつた。
「どうでせう。いつそあの障子も脇戸もとり払つて、曇り硝子に高間医院といふ字を抜きましてね、厚い二枚戸でも入れたら――」
「うん」
 と生返事をしながら、大工の口にした高間医院といふ名前が耳新しく響いたので、房一は思はず微笑した。
「よし。――さうしとかう」
 云ふなり又思ひ出したやうに玄関へ上つて行つた。

 彼はもう何度も家の内外を行つたり来たりして、「高間医院」のでき上り工合を綿密に眺め歩いてゐた。新開業の胸のふくらむやうな思ひが、とりとめもない快感が次々と起きて片時もぢつとして居れない風だつた。
 最初、房一の頭の中にはペンキ塗りの清潔な外観を持つた医院が描かれてゐた。だが、この長たらしい築地にかこまれた家を一見するに及んで、その考へは棄てざるを得なかつた。今の大工の一言できまるまでに、何度玄関を外から眺めたことだらう。
 家の内部
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