したやうにさへ見える。
「さうだね。まさか医者の家に古障子の玄関といふわけにもいくまいね」
房一は白シャツを着た小柄な大工と並んで立ちながら、玄関を眺めて云つた。
やうやく三十に手が届いたばかりだが、苦労したのとその無骨な外貌のために年齢よりは四つ五つ老けて見える。がつしりと人並外れて幅広い肩はむくれ上るやうに肉が盛り上つて、何だか猪首のやうな印象を与へた。
「うむ、何かあ」
と、横合から老父の道平が房一に寄り添つて来た。
「玄関の手入れをどうしようかと云ふのですよ」
房一はいくらかつんぼの道平の耳に口を寄せて、大声で云つた。
「うむ、さうか。玄関のことか」
いかにも得心した風に深くうなづいた道平はそれで又ゆつくりと脇きへどいて、さつきからやつてゐた通りの見物人にもどつた。彼はいつもの癖である尻はしよりの恰好で、真黒に日焼けした両脚を突き出したまゝ立つてゐた。今朝彼は河向ふの自分の家から息子の医者の家ができ上る様子を見に来たのだ。そのまゝ尻はしよりを下さないのである。老年の柔和さの現れたうるみのある眼をはつきりと開けて、別に口出しするわけでもない、たゞ房一の傍にゐてその云ふこ
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