を思つたのか彼は写真に残つてゐる先代のやうに髯をのばしはじめた。最初のうちはもじやもじやしたごま塩の汚たならしい色で、皆から可笑《をか》しがられてばかりゐたが、のびるにしたがつて白味を加へ、似合つて来、そのあることがあたり前にさへなつてゐた。殊に病中には、彼がもどかしがつて口をあくあくさせる度に、髯のはしがびりびりふるへ、はね返り、遠くにゐても彼が何か云ひたがつてゐることが判つたくらゐで、したがつて彼の身にもついてゐれば、はたの者の目にもすつかり馴染まれてゐたのである。
それを今又さつぱりとやつてしまつたのだ。髯のなくなつた彼の顔は、ずつと前のそれに逆戻りはしないで、病後の面変りも手つだつて、その円つこい縮《ちゞ》かんだ輪郭が何かしら小さく、愛くるしげに見えた。
「あら!」
と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。
「どうしませう、ほんとうに! すつかり落しておしまひになつたんですのね。――どうも、さつきから様子がちがふと思つてゐたんですが、道理で!――さうでしたわねえ、お髯がなくなりましたわねえ」
盛子は笑ふまいとしながら、こらへかねて真紅になり、そこにうつ伏しになつてしま
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