てゐた。房一はちらりとその顔を見たが、黙つて片づけてゐた。
「なあ、先生」
「うん?」
「怪我人ができたのかね」
「さうだ。大したことはない」
「ふうむ」
 徳次はいつのまにか腕組みをしてゐた。あのあてずつぽうな、そゝつかしい、力《りき》んだ様子が現れてゐた。
 房一はそれに目をとめてゐたが、急に強い口調で、
「君に云つとくが、何んだぜ、小倉組の者なんかにかゝり合ひをつけちやいかんぜ」
 徳次は慌てた。
「何かね、わしがどうしたといふんかね」
「いや、何もしたといふわけぢやない。これから先きのことだよ。かゝり合つちやいかんと云ふんだ」
「いや、そんなこたあ、――そんなこたあしませんよ」
「あいつらと来たら、すぐこれ! だからね」
 房一は刃物で突く恰好をしてみせた。
 徳次は一種くさめをする前のやうな、煙《けむ》たげな表情になりながらわき見をしたり、房一を眺めたり、どぎまぎして答へた。
「いや、――わしはそんなこたあ嫌ひだ」

     四

 八月も末だつた。十日あまり思ひがけない涼しさがつゞいたので、このまゝ九月に入るのかと思はれたが、暑さは又ぶり返して、がまんがならないほどだつた
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