りと生れかゝつてゐるのだつた。まだ目には見えないその隠れた、だがすでに在ることだけは確かな存在が、それだけでこんなにまはりの物を変へてしまつたのだ。それはひよつこりとしてゐる、同時に彼にも盛子にもつながりのある不思議な或る物だつた。彼は職業柄アルコール漬になつた月別の胎児はいやといふほど見て知つてゐた。が、今彼の感知してゐるものはそれとは似ても似つかないものだつた。それはむくむくして、今はぢつとしてゐるが、やがて動き出さうとし、やがて手をひろげ、やがて彼の肩だの腕だのにすがりつかうとしてゐる、温い、柔い、――
房一は椅子から立ち上つた。
膿盆だの鋏、脱脂綿の袋などがまだ散らかつたまゝになつてゐるのを片づけはじめた。
ふと気づくと、玄関に人が立つてゐた、半シャツの男だ。瞬間、又来たな、と思つた。
が、それは徳次であつた。
きよろりとした眼でしきりと家の中をのぞきこみながら、しばらくして
「もう帰つたんかね」
「――?」
「小倉組の連中が来たちふぢやないかね。ほんとうかね」
「うん、もうさつき帰つたよ」
「さうか、惜しかつたな」
徳次は足を踏ん張つて立ち、まだそこら中を見まはし
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