だつた。
「よからう」
 男はまだ立つて、あの話を持ちかける構へといつた風を持してゐた。
「よろしい。承知した」
 男は一歩下つた。
「大きに。ありがたうござんす。よろしう頼んます」
 さう云ふと、男は入口に待つてゐた印袢纏の背の高い男とつれ立つて、高間医院を出て行つた。

 房一は彼等の姿が消えてからもしばらくの間、ぼんやり元の椅子に腰をかけて、たつた今彼等がそこを曲つて行つた入口の土塀、それで一所だけ区切られた表の道路、その向ふに稍高手になつた畑地、といつたやうな物を漠然と眺めてゐた。
 それは六月も末のかつと輝いた午《ひる》近い一つ時だつた。いや、正午はもう廻つてゐるかもしれない。畑地には道路のすぐ傍にあまり大きくない柿の木がぽつんと一本だけ立つてゐた。その葉はまだ新芽の柔かさを保つてゐた。日にきらきらしてゐる。さうやつてひとりでに自分を磨いてゐるみたいだつた。誰も表の道路を通らなかつた。
 何となく身体が倦《だ》るかつた。それにちがひはない、今日は珍しく朝早くから川につききりで、おまけに呼びもどされるとすぐ今の騒ぎだつた。埃で黄くなつた頭髪、泥と血の塊り、男の不安げな眼、それか
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