がら、腹帯の中からまるで金入れとは思へない位に大きな蟇口をとり出すと、十円札を何枚かつかんでゐた。そして、ろくに返事も聞かないで房一に押しつけた。
「それあ、いかん。こんなに多くはいらんよ」
「いや、まあ。――後の分もありますよつて、黙つて預つといて下さい」
 男はうむを云はせなかつた。
「よし、それでは預つとかう」
 房一はきつぱり云つた。男は、これは話が判る、といふやうな顔をした。それに押つかぶせるやうに、
「たゞし、預かるだけだよ。この分が残つてゐる間はいくら後から来ても貰はんよ。いゝかね」
 男はじろじろと房一を見てゐた。
「それは、せんせい[#「せんせい」に傍点]のお考へに任せますわ。――ですが、今日のことは、ほんの内輪の間違ひやさかい、そのことは含んどいてもらはんと困ります。よろしいな。――内輪のことや」
 男は語尾に力を入れて、房一の眼の中をのぞきこんだ。
 房一はその時診察用の椅子に腰を下して、ゆつくりと煙草をふかしながら、何気ない風で男の様子に目をつけてゐた。彼は男の要求する意味を悟つた。たゞ治療をしろ、他のことは見て見ぬ振りをしてくれ、まして他言は無用だ、といふ意味
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