であらう。だが、彼はさういふ小むつかしいことは面倒臭かつたし、又下手だつた。彼はたゞ感じた。そして暖昧な身振りをしただけだつた。

 遠くの方で誰かが呼んでゐた。
 河原の端にある高い築堤の上で、白い割烹着《かつぽうぎ》を着た女が、口に手をあてて何か叫んでゐた。
 それは盛子だつた。きりつとした割烹着の姿は彼女の伸びやかな身体の特長をよく現はしてゐた。
 聞えないといふしるしに、房一は手を振つて見せた。それが盛子にも解りにくいらしく、しばらくためらひ気味に立つてゐたが、やがて河原へ下る段を降りはじめた。
「患者さんですよう」
 近づきながら、何となくほの紅くなつて、中声で叫んだ。そして、房一の傍にゐる小谷と徳次を認め、小腰をかゞめた。括《くゝ》られてふくらんだ袖口からは気持のいゝ白い腕が露はれてゐた。
「うん、今帰るところだ」
 と房一が答へた。
「獲《と》れましたか」
 盛子は、歯切れのいゝピツと語尾の跳ね上るやうな調子で、愛想笑ひをしながら小谷に訊いた。
「いや、高間さんは大漁ですがね。わたしの方はさつぱり駄目ですよ」
「さうですか。それは――」
 心持照れ臭さげにしながらも、盛子
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