まで刺しつけて動けんやうにした。だもんで、女の方はどうにもならんのだね、そこへしやがみこんだまゝヒイツヒイツて泣いとつた。見た男は足がふるへたつていふが、それあ誰でもふるへるだらう」
「ふうん。ひどい奴だねえ」
 小谷の話で、徳次はすつかり興奮したらしかつた。そのきよろりとした眼はすつかり開けひろげられ、一種|上《う》はずつた色が動いてゐた。何となく落ちつかない様子で上半身をぐらりとさせ、無意識に片腕を振り降した。そのはずみにひよろ長く生えた雑草に手を伸して引き※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》り、それを口にくはへた。
 その粗暴な外見とは反対に、徳次はさういふ血生臭《ちなまぐさ》いことが嫌ひだつた。そして、人並外れた敏感さを示すのであつた。今もそれで、彼はいかにも心外げな様子を、その無意識な仕草の中に現してゐた。
「わしは反対だ!」
 何となく、彼はさう云ひたげであつた。実際それは咽喉まで出かゝつてゐた。若し彼が理窟といふものを知つてゐたら、日常の些細《ささい》な事柄からでも尤もらしく意見をすぐに云ひ立てるあの「町の衆」のやうな頭があつたら、彼は勢ひこんで口にした
前へ 次へ
全281ページ中168ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田畑 修一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング