つい二三ヶ月前からはじまつたのである。
「おーい。渡つてもいゝかね」
 小谷が対岸から流れを指しながら叫んでゐた。房一の竿の前を渡渉《とせふ》するので承諾を求めたのだ。
 房一は大きくうなづいて見せた。もう獲物は大分前からとまつてゐた。

     二

 日は高く上つて、噎《む》せるやうな温かい空気が、時々、風の工合で河原の方からやつて来た。徳次も切り上げて来た。三箇の魚籠《びく》を中にして、頭を並べて獲物を見せ合つた。
「やつぱり徳さんが多いね」
 小谷は疳高い声で云つた。
「それあ、あんた」
 云はずと知れたことだ、といふやうに徳次はそのきよろりとした眼を上げて小莫迦《こばか》にした風に小谷を眺めた。大きい麦藁帽子を被つてゐるので、小谷のやさしい顔立ちはひどく女らしく見えた。
 その時、又あの鈍い重量のある音が下流の方からどよめいて来た。それは前のよりもはるかに大きく、つゞけさまだつた。
「何だらう?」
 小谷は不安げに呟いた。
「ハッパさね」
 と、ちやうど追鮎箱のところへ立つて行きかけた徳次は、事もなげに云つた。彼はその水際のところでいきなりシャツをはぎとると、バシヤバシヤツ
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