な》つた竿をしつかりと引きつけはじめた。
荒々しい鮎の走りが竿から腕に、腕から身体の隅々まで伝はつて、それは彼の胸いつぱいに快い感動をひき起した。糸をひきよせるにしたがつて、二つの鮎のひらめきもつれる形が見えた。この二つの生き物は、まるでその持つ力以上の力といふやうなものに駆《か》られてゐる風に、走り、浮き、旋回し、沈みしつゞけてゐた。手早く網ですくふ。パシヤパシヤ水が跳ねて、獲物は房一の手の中で強くビクビクと動きやまない。追鮎はまだ元気で、背の色も濃い。ふたゝびそいつを放すと、追鮎は又以前よりもはげしく流れの中央に向つて走り出す。まだすつかりさめ切らない興奮の快さに、ぢつと竿を見まもつたまゝ何か忘れたやうになつてゐると、やがて又あの強い引きがいきなり彼の腕を胸を荒々しくよびさます。
房一はすつかり夢中になつてゐた。
はじめの中は房一の傍で指南顔に見てゐた徳次も、やゝ下手の流の中につゝ立つて、身動きもしない。ほつそりした身体つきの小谷は、いつのまにか対岸に渡つてゐて、これも深い黙想に似た形に稍首をかしげて凝然《ぎようぜん》としてゐる。獲物はちよつと途絶えたが、しばらくすると又掛り
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