うれしがつてゐるやうな無邪気さは消えてゐた。代りに現れたものは物柔い優しさに満ちた注意深さだつた。
「途中から帰つて来たんだよ」
房一はむつつりとしたまゝ答へた。
「途中から――?」
房一の出先きで起きたこと、何かしら普通でないその事を理解しようとして、盛子は房一の顔をまじまじと見まもつた。
肉が部厚に盛り上つてゐるために自然と深くできた額の横皺、稍《やゝ》動物的な感じのする大きな眼玉、近頃その上に髭を蓄へはじめた厚いふくらんだやうな唇、それらのあまり美しいとは云へない部分々々を一つの形にまとめるやうに顔の下半から張り出してゐる円い確《し》つかりとした案外柔味のある顎――盛子が結婚後最初に覚えたのはこの円い顎だつた。それは房一の顔に調和と落ちつきを与へてゐたばかりでなく、盛子の胸に何かしら安心と親しみ易さを感じさせた。
盛子は時々半ば無意識に呟いた。
「あの人はつまりこんな風な人なんだわ。こんな風に――」
こんな風に「円い」――のだらうか。いや、それはどうでもよかつた。盛子はそこに房一を感じてゐた。それは房一の醜い他の部分を忘れさすに足るものだつた。
が、ひどく不機嫌になつ
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