鉢で温めた。それは静かな家の中でたゞ一つの物音のやうにかたことと音を立てて煮えた。何となく、盛子は小さい娘時分のおまゝ事を思ひ出した。そして近来そんなことを一度もしたことはなかつたのだが、小娘のやうな気になつて、煮え上るのを待つ間横坐りに足を投げ出して煮える音を聞いてゐた。
 ゆつくりと時間をかけて、楽しみ楽しみ喰べた。それは喰物のおいしさよりも、かうやつて小娘のやうな真似をするのがおいしかつたのだつた。
 一人だと何んて少ししか喰べないもんだらう、まるで小鳥の餌ほどだつたわ、と可笑《をか》しがりながら。――それに、後片づけだつてざぶざぶつと一二回やれば済んでしまふわ、と横目で膳の上を眺めながら。
 そこへ房一が帰つて来たのだ。盛子は横坐りの所を見られまいとして慌てて立上つた。
「随分早いのね」
 さう云ひながら、盛子はゆつくりと喰べてゐた物がまだ口の中に残つてゐるような無邪気な顔をした。
「ふん」
 房一は怒つたやうな嘲《あざ》けるやうな調子であつた。その顔は何故か黒ずんで見えた。そして、目がぎらついてゐた。
「どうしたんですの? 何かあつたんですか」
 盛子の顔からはもうあの一人で
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