神原の隠居直造の弟にあたる。昔気質《むかしかたぎ》の一克《いつこく》な性分ではあるし、むろん一人娘と知吉との間を許す気はなかつた。ところが、ふしぎなことが起つた。あまり美しくもなく、その単純な性質と温和《おとな》しさが何よりの取柄だつた娘のあいは、知吉にどんな魅力を感じたものか父親の意見には挺《てこ》でも動かない大胆さを示したのである。その頃知吉は四五里先の村へ養蚕を教へに行つてゐたが、あいはそこへ奔《はし》つた。つれ戻され、又出るといふごたごたを繰り返したあげくに、たうとう相沢章助も不本意ながら黙認せざるを得ないことになつた。けれども知吉を嫌つて家へ入れなかつた。さういふ章助の態度に反撥を感じた知吉は、今に見ろと思つたにちがひない、東京へ出て法律を勉強した。あいはむろん同行した。五年かゝつたが弁護士試験には及第しなかつた。するうち、あいとの間に市造が生れたので、間に口をきく人があつて河原町に帰つて来た。帰郷してみると、章助は甥にあたる神原喜作を養子として迎へてゐたし、知吉は相沢家へ入れられずに依然として冷淡な待遇をうけた。もつとも、章助は孫の市造には目がなかつたので、それにひかされて
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