たう。――あ、大きいね」
 笹の葉の下から現れたのは頭から尾まで黒々と廻り、全体に円味がつき、所々の鱗が金色に光つてゐた。
「大きいやつだねえ」
 と、房一はもう一度感心した。
「大きいかね」
「大きいとも、こんなのを見たのは久し振りだ」
 徳次はやつと安心した。さう云はれてみると、なるほどちつとは大きいかなと思つた。持つて来た甲斐があるといふものだつた。

     四

「千光寺さんに使ひをやつたのかい。――誰もまだ行かないつて? ――何あんて間抜けだのう。庄どん、お前一つ行つて来とくれ。提灯《ちやうちん》を忘れるなよ。もう皆さんがお集りですからお迎へに上りました、つて云ふんだよ。うん、うん、さうよ。いつしよにお伴をしておいで」
 鍵屋の隠居神原直造は老来なほ矍鑠と云つた様子だつた。
 彼はもう三時間も前から紋附羽織に袴といふ恰好で、八畳と十畳とを合せた広さの上り店の間に控へてゐた。彼の坐つてゐる場所は大きな欅《けやき》の塗り柱の前で、そこには以前古風な帳場格子がどつしりと据ゑられ、当主の文太郎に家督を譲るまでの何十年間をこゝに坐り通し、帳つけをし、入つて来る人達の挨拶を受けたもの
前へ 次へ
全281ページ中124ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田畑 修一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング