く会ふ人ごとの心をつかむ――「ふん」と、房一は独言のときに自然と目の前につくり上げるもう一人の自分に向つて冷笑してみせた。
「そんなこと位は造作もない。おれにとつては小指の先の芸当だ」
 もつと別なものが、医者以上の或る者が必要だつた。房一は全身でそれを感じてゐた。たとへ彼が自分を高く持してゐたところで、河原町の人は彼を高間道平の息子としてより以上にはあまり見てゐないことは、房一にはよく判つてゐた。彼には免状もあるし、開業するのを誰もとめ立てすることはできなかつた。それだけの話だつた。それは町の人達がこれまで抱いて来た「お医者」の観念とはまるきり別だつた。だから、彼等はいまだに房一が往診鞄などを提げて歩いてゐるのにぶつかると、何となく半信半疑な面持を、時には曖昧なうすら笑ひを浮べたりする。
 今それを思ひ浮べたとき、房一はふいに一種の怒気を感じた。それは疾《や》ましさのないはげしい敵意、何かしらぐつと相手を地面まで押しつぶしてしまひたいほどの、腹の底からこみ上げて来る得体のしれない力だつた。
 犬が何を見つけたのか、その時さつと身を躍らして傍の草地にとびこんだ。二三度そこらをぐるぐると
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