行く。
「ふむ。悧巧者だな、お前は」
 房一は満足げに、かへつて来た犬の頭をかるくたゝいた。
 このポインタアの雑種は、房一の往診にはどこへでもついて来た。いゝ路づれだつた。

「なあ、ジョン!」
 と、房一はひとり言を云つた。
 彼はもう少しで最も善い友人に向ふやうに考へごとを打ち明けるところだつた。
「おれはまだ一本立ちの医者といふわけにはいかない」
 さう声に出してみた。そして犬の方をふりかへつた。犬は彼の方を信頼にみちた眼で見上げ、しなやかな尾を振つた。
「さうだよ、ジョン」
 それから、房一は歩きながら漠然とした沈思に落ちた。
 ――彼は医者である。免状もある。開業もした。患者もどうにかつきはじめた。職業的には立派に医者としての条件を具へつゝある。だが、河原町ではそんなことは通用しないのだ。何か別のものが、職業上の条件以上のものがここでは必要だつた。
 患者の脈を見たり、舌を出させたり、背部を指で押し、打診し、薬を与へたりすること、そんなことは誰にだつて出来る。それからあの、開業医にはぜひとも必要だと云はれてゐる社交的な才能、お世辞を云つたり、砕けた気の置けない態度で抜かりな
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