ゐる自分をはるかに見つけ易いことに気づいた。瞬間彼は、この広い河原に自分の隠れこむ場所はないかと探すかのやうに、きよろきよろあたりを見まはした。だが、自転車の男は崖上の路に気をとられてゐるのか、まだこちらに気がつかないやうだつた。徳次は下向きになつた。見まいとした。けれども、何かしら気になつて、顔を紐か何かで上《う》は向きにひつぱられるやうであつた。
その次にふり向いたとき、果《はた》せるかな、殆ど目の前の対岸から、はつきりと彼の方を向き、ためらひながら何か云ひたげにしてゐるやうな相手の顔を見た。それは徳次の幼友達であり、彼の兄貴株でもあれば大将株でもあつた、そして今は彼なんかには傍へもよりつけないやうに感じられるあの「医師高間房一氏」であつた。
徳次は年下だつたせゐもあるが、子供の頃やはり泥まみれになつたり、着物の裾を水浸しにしたりして、房一の行く所にはいつもついて行つたものだ。彼は房一の悪戯《いたづら》の共謀者でもあれば手下でもあつた。彼の単純な胸の中には、いまだにその頃の房一に対する尊敬の念が残つてゐるのである。房一が「医師高間房一氏」になつて河原町に帰つて来たとき、子供の頃
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