顔半分|潰瘍《かいよう》し去った埃及《エジプト》人が、何かを売りつけようとして馬車を離れない。が、これでまだ動いてるからいいようなものの、もし、そこのキャフェの張出《タレス》にでも腰を下ろして、これでまあ行商人達を撃退してよかったなどとほっ[#「ほっ」に傍点]と安心していようものなら、たちまち蠅のような彼らに包囲されて靴磨きの子供は足へ取りつき、春画売りは恐るべき色眼を使って袖の陰から絵を覗かせ、宝石屋は君の鼻先へ首飾りをぶら下げ――そうして君は、君はとうとう癇癪を起して靴みがきの耳を引っ張り、春画売りを大声叱咤し、宝石屋を殴り飛ばして、あわれ逮捕の憂眼《うきめ》を見ることとなるであろう。
通行の群集はまるで世界中の敗残者から成り立っている。希臘《ギリシャ》人・東邦人《レヴァンテン》・あらぶ・埃及《エジプト》人・とるこ人・シリヤ人・回教を信じようとしない「西方から来た白い悪魔」たち・遊牧の貴族べずいん人。その黒くうるんだ大きな瞳・鼻筋から両眉のあいだへ円く巻いて渡した銅の針金・房付帽《タアブウシュ》・長袖下衣《キャフタン》・薄物・布頭巾《タアバン》・冠物附外衣《プルヌウス》・頬を線状
前へ
次へ
全59ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング