フところに過ぎない。
で、これらの大小事件を突破したのち、ようよう船へ乗ることが出来たのだった。
四月二十日出帆というのに、潮の工合で、二十日は早朝に解纜《かいらん》するから、十九日一ばいに乗り込むようにというお達しである。ポウト・トレインは、四時二十分にフェンチャアチ停車場を出るという。その二十分前の四時になっても、私たちはまだ荷拵《にごしら》えが出来ずにいる。
荷物が余ってどうにも仕様がないのだ。一たい、この、室内に山積し散乱している物品を白眼《にら》んで、過不足なくその全部を入れるに足る容積のトランクなり鞄なりを予め想定するには、実に専門的な眼力を必要とするのだが、私達はこの点でも明かに失敗した。すなわち、充分這入ると多寡をくくって安心し切っていた最後のトランクへ、いざとなって詰めて見ると、思った半分も這入らないのだ。と言って、今になって入れ物を買いに走る時間はない。仕方がないから、下宿の老婆を煽《おだ》てて家《うち》じゅうから買物の空箱《あきばこ》やら、クリイニングから洋服を入れてくるボウル紙の箱や何かをありったけ徴収し、それへ手当り次第に放り込んだのを糸で縛ってタキシへ
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