lえこみながら、
『うん――。』
妙にうっとり[#「うっとり」に傍点]して答えてた。そして、今夜はガルシア・モレノに「上海《シャンハイ》」――深夜|埠頭《ふとう》の散歩者を暴力で船へ担ぎ上げて出帆と同時に下級労役に酷使すること――があるにきまってるから、あんまり遅くまでここらをうろつかないがいい――と忠告した僕のことばが、いまから思うと、絶大な啓示として彼を打ったに相違ない。なぜって君、その晩、聖《サン》ジュアンの酒場でしこたま[#「しこたま」に傍点]|燃える水《アグワルデンテ》をあおって、すっかり「腹の虫」と自分の意識を殺しちまった跛者《リンピイ》リンプは、わざとがるしあ・もれの号の上海《シャンハイ》隊を待って、眠る大倉庫の横町にぶっ[#「ぶっ」に傍点]倒れていたからだ。
リンピイは行ってしまった。ガルシア・モレノの上海《シャンハイ》隊に自ら進んで上海《シャンハイ》されて、無意識のうちに担ぎ上げられてリンピイは行ってしまった。
船と女と whim を追って海から海をわたり歩いてるリンピイ!
急傾斜する水平線をしばらく忘れて、内心どんなにか淋しかったリンピイ!
どこでなにをし
前へ
次へ
全79ページ中76ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング