「。明朝早くの出帆だから、いま補欠が見つからなけりゃあ、今夜じゅうに一人「上海《シャンハイ》」しなくちゃならないんだ。支那公《チンキイ》、本船へ来いよ。ま、見せてやろう。』
 事務長についてって覗いた乗組員部屋《クルウス・クオウタ》には、上陸したと思った船員がすっかり納まってて、その夜のめいめいの女――なるほど船乗りらしく男装はしていたが、見たところ美少年のような、確かに異性だった――を相手に、はなはだ貨物船らしくない空気のなかで平和に談笑していた。BAH!
 半分以上は女が動かしてるガルシア・モレノ?
 これじゃあリンピイの商売は勿論、僕の「しっぷ・ちゃん」だって上ったりなわけで、どんな不思議も、こうして解っちまったあとでは何ら不思議じゃない。
 ただ、一刻も早くリンピイにこの発見を伝えたいと思った僕が、じゃあ、ちょっと荷物を纏《まと》めて直ぐ引っ返して来るからと事務長に約束して、いそいでガルシア・モレノ号を逃げ出したことは、自然すぎるほど自然で、言うまでもあるまい。
 波止場《カイス》でリンピイにこの話をして、
『驚いたろう?』
 と結ぶと、リンピイは何かじっ[#「じっ」に傍点]と
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