゚によろめいて、ちょうど理髪屋みたいな、土間だけの小店が細い溝をなかに櫛比《しっぴ》している。そして、その一つ一つの入口に、今朝はだし[#「はだし」に傍点]で魚を呼び売りしてたような女たちが、それぞれ木綿レイスの編み物なんかしながら客を待ってるのを見かけるだろう。跣足《はだし》と言えば、ついこの先日まで、漁師やその女房子供は、天下御免にはだし[#「はだし」に傍点]で歩道の石を踏んでたものだが、そこへ急にお達しがあって、以後|跣足《はだし》厳禁、違反者には罰金として鰯《いわし》何十匹を科するなんてことになったので、この連中があわてて靴をはき出したまではいいものの、ところが、何しろ生れてはじめて穿《は》く靴なのでどうも脱げでしようがない。おまけに、考えてもみたまえ! 固い動物の皮で石の上を歩くんだから耐らない。すっかり足を痛くしちまった。それで、この魚売りの女たちが、巡査を見かけ次第穿く用意に、手に靴をぶら下げて街上に立ってるところが新聞雑誌の漫画に出たり、寄席の材料に使われたり、当分賑やかなリスボアの話題だったが、こんなような型の口髭の女まで、夜はここらに出張って来て、酔いどれの水兵でも
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