ヘもうと希望してるのだ。人が通ると、レイス編みを中止して何か呪文を唱える、金十エスクウドの相場。戸口からほん[#「ほん」に傍点]の二、三歩むこうに敷布みたいな白い幕が引いてある。そのかげに寝台があるらしい。客がつくと幕をはぐって奥へ入れる。灯油に照し出された小さな土間だ。申しわけにちょっと幕を引くばかりで、もとよりおもての戸なんぞ開けたまんまである。こういう家が、蜘蛛《くも》の巣のような露路うらにびっしり[#「びっしり」に傍点]密生している。ばいろ・あるとよりは、また一段下の私設市場だった。
 海岸へも遠くなかった。夜の波止場では、やはり各国船員の上陸行列に酒精《アルコール》が参加し・林立するマストに汽笛がころがり・眠る倉庫のあいだに男女一対ずつの影がうろうろし・悪罵と喧嘩用具が素早く飛び交し・ふるいINKの海をしっぷ・ちゃんロン・ウウの小舟《ボウテ》が撫でまわり・あらゆる不可能と包蔵と神秘の湾――YES、港だから、毎日船がはいる。そのために来る夜もくる夜も、海岸通り聖《サン》ジュアンの酒場《タベルナ》と|山の手《バイロ・アルト》「マルガリイダの家」にしこたま[#「しこたま」に傍点]お
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