ネ兵卒がより[#「より」に傍点]弱そうな士官にだらし[#「だらし」に傍点]のない失敬をし、こわれたTAXIが息を切らして黄色い風を捲きおこし、この奇蹟に驚天動地して狭い往来に雑沓が崩れ立ち、それを見物して巡査はただにやにや[#「にやにや」に傍点]し、その巡査へ現政府反対の八百屋組合から袖の下が往き届き、犬は人を嗅《か》ぎ、植物はほこり[#「ほこり」に傍点]を呼吸し、RADIOの拡声に通行人の全部が足をとどめ、業病と貧困の男女から異臭が発散し、青絵の模様|陶板《タイル》を張った無気味きわまる住宅建築に教養のない顔が出入し、この、大陸の「東部区《イイストサイド》」! 地球上のめにるもんたん[#「めにるもんたん」に傍点]! そして、ふたたび猫・猫・猫――何てまあ宿無し猫みたいな人間と、人間のような棄て猫とがじつに仲好くうようよ[#「うようよ」に傍点]してる無秩序そのものの古河《スワンプ》LISBOA!
 だから、何も|山の手《バイロ・アルト》とは限らない。すこしの冒険心をもって、夜そこらの坂に沿う露地を縫ってみたまえ。くわえ込みの木賃宿 hotel para pernoitar の軒灯がなな
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