tまで――十二時になるとお婆さんが二階の戸を叩打《ナック》して男を追い出す――こうして、この空博奕《からばくち》に勝ったやつが、白熊テレサと彼女の over voluptuousness を専有し満喫するのだ。甘い物のげっぷ[#「げっぷ」に傍点]と一しょに、いつもの「ふらんす女・涙の半生」を機械的に繰り返しながら、はなし半ばに怒濤のような鼾《いびき》をかき出す可哀そうなテレサ! 何という呪われた大健康と、悲しいまでの肉体への無関心《インデファレンス》であろう!
垂れたかあてん[#「かあてん」に傍点]から光る海風が流れこんで、リスボンは今日も輝かしいお天気だ。
この坂の上の魔窟町《バイロ・アルト》へ最初に訪れる「ほるつがるきぬぎぬ[#「きぬぎぬ」に傍点]情緒」は、早朝から真下の裏街を流して歩く跣足《はだし》の女魚売りの呼び声である。
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あう! かしゅうれ!
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というのは小鯛。
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サア――ルデエイニアス!
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と聞えるのが鰯《いわし》。
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えいる・えいる!
むしりおううん
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