ウもなくて、ああのべつ幕なしに甘いもの――名物こんぺいとう・乾し無花果《いちぢく》・水瓜《すいか》の皮の砂糖煮・等等等――を頬ばっていられるわけがなかったし、そのため、今にもぱちん[#「ぱちん」に傍点]と音がして破けそうに肥っていたが、そのうえ、恐ろしいまでにあらゆる無恥と醜行に慣れ切っていて、いかに同情をもって見ても、この女にはいささか病的に欠如しているものがあった。それでも、港々の売春婦《プウタ》なみに彼ら社会の常識だけは心得ていて、自分ではちゃあん[#「ちゃあん」に傍点]と仏蘭西《フランス》生れと名乗っていた。そして、何と素晴しいふらんす語をこのふらんす女の白熊テレサが話したことよ! 「めあすい」とジョンティ・ミニョンとこむさ[#「こむさ」に傍点]と「ねすぱ?」と! これでも判るとおり、彼女は生え抜きの――流行雑誌のもでる[#「もでる」に傍点]と、一九二七年度の巴里《パリー》の俗歌以外には仏蘭西なんかその smell も知らない――ほるつがる人で、現に、「|太陽の岸《コスタ・デ・ソル》」サン・ペドロの村はずれで馬の爪へ鉄靴をはかせる稼業をいとなんでる父親が、二週間に一度のわりで小
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