ヘ出来てるかい? 何でもいいから花を取り変えてお置きって言うのに! お船の人は家庭らしい空気が好きなものだから。それから掃除! リンピイ! おや! リンプ! どうしたんだろうまああの人は――しかし、テレサにだけは急に眼立って御機嫌を取り出して――テレサや、今夜も強い好い人がわざわざ海を越えてお前んとこへ来るんだよ。テレサや、お前は一たい、帆桁《ほげた》のような水夫さんか、手の白いボウイさんか、それとも黒輝石みたいな印度《インド》の|釜たき《ファイアマン》さん? どんなのが一番好きでしたっけ? わたしの可愛いお猫さんのように、さ、お湯をつかって支度をしましょう――といった調子なので、テレサはテレサですっかり[#「すっかり」に傍点]ふくれ返って、その巨大な北極熊みたいな全身へ万遍なくおしろいを叩きはじめる。この裸体のお化粧は、何もテレサひとりの個人的趣味ばかりではなく、「マルガリイダの家の」一 attraction として大いに事務的必要があったのだ。
 テレサは、僕の知る限りにおいてすこし「|二階がお留守《ノウバディ・アップステアス》」――頭がからっぽ[#「からっぽ」に傍点]――だった。
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