轤オかった。よれよれ[#「よれよれ」に傍点]の茶の背広を着て、洋襟《カラア》のかわりに首のまわりに青い絹を結んで端をだらり[#「だらり」に傍点]と垂らしてるのが、恐らく前世紀的でもあったし、また観察によっては、領地巡視中の英吉利貴族《イギリスロウド》といった場外れの効果がないでもなかった。じっさい、いささか「ゴルフ・乗馬・午後の茶」の筆触《タッチ》をつけて古風に気取ってみたいのが、この潮臭い無頼漢|びっこ《リンピイ》・リンプの趣味らしかった。しかし、その不幸な歩行機関の支障と、あまぞん特産のポケット猿みたいな小さな顔と、鼻からロへかけて間歇的にひくひく[#「ひくひく」に傍点]する筋肉|痙攣《けいれん》と、悪疾のため舌の絡む語調とが、可哀そうな彼の努力のすべてを裏切って、親愛なリンピイ・リンプを、やっぱりただの「りすぼん埠頭の幽霊」|びっこ《リンピイ》・リンプ以上の何ものにも買わせていなかった。つまり事実は、彼リンピイは「港の Old Man」に過ぎなかったのだ。
 船で|おやじ《オウルド・マン》と言うと船長のことだ。そして、船から上って陸《おか》で|おやじさん《オウルド・マン》といえば
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