Aなくても解る間柄なんだろう。文言も、男の字で大きく Souvenir と走り書きしてあるだけだった。
入口の横に、黒板が一枚立てかけてある。下級船員専門の桂庵《けいあん》の募集広告だ。が、ちっとも希望者がないとみえて、貼り出してあるのは、求人の部ばかりである。水夫・水夫・石炭夫。なになに号・なになに号・なになに号・高給・高給・高給・別待・特遇・履歴不要。なかに一つ「大工をもとむ」と特別大書してある。この黒板面はいつも変らないとみえる。何年にもこのとおりで、消すこともないらしい。あき[#「あき」に傍点]を埋めて、一めんに船乗りの楽書きだ――。
リンピイの声が、僕を酒台へ呼び戻す。
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けれ・うま・ぴんぎにあ!
[#ここで字下げ終わり]
「|一ぱい飲まねえか《ケレ・ウマ・ピンギニア》」――一杯てのは「ぴんが」なんだが、そのピンガに愛称をあたえてぴんぎにあ[#「ぴんぎにあ」に傍点]――みんな仲よくこの|燃える水《アグワルデンテ》のピンギニアをあおりつけてる。
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お! いっぺえやりねえな。
けれ・うま・ぴんぎにあ!
けれ・うま・ぴんぎにあ!
あり
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