煤uひょっこり」に傍点]いつあらわれないとは who could tell? だからこうして、そっくり保管して待ってるんだろうが、封筒も葉書も、それから毎日、一応出入りの客の調べを受けて真っくろだ。
何といろいろな人生を黙示する、この、受取人のない酒場の郵便! 陸の声が、ここ「大地の果て」でぷっつり切れてるのだ。素早く僕は宛名に眼を通し出したが、急いでるのと、何しろどれもこれも非道《ひど》い悪筆のうえに、おまけに得態《えたい》の知れない外国語がおもなので、名前だけでも容易に読めない。ジョセフ何とかいう男へ、白耳義《ベルギー》アントワアプのKCN――これだけでは差出人の性別はわからないが、「御存じより」と言ったところだからまず女とみてよかろう――から三通来ている。三つとも1926年で、これはわりに新しい。ほかに「サルデニア島トルトリ」と投函地名だけ判読出来たのが一本、他は書体がくしゃくしゃ[#「くしゃくしゃ」に傍点]しててどうにも手に負えない。そのうちに、英吉利《イギリス》 Hull 港の絵葉書がひとつ出て来た。Mr.Arthur W.Cole へ宛てたもので、差出人の名は書いてないが
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