スといううら[#「うら」に傍点]悲しい明け方の夢の展覧会! 蜂《はち》のような腰の馬上貴婦人と頬ひげの馬上紳士。乳を出して笑ってるボンネット。大帆前船《バアカンテン》難航の図。花の代りに美人の顔が咲いてる絵――これは仏蘭西《フランス》しゃぼんの広告――寝台の脚とそばに脱いである男女二足の靴だけを大きく出した写真――靴屋の広告――「OH!」と題したのは、女が向い風に裾《すそ》を押さえて困却してるところ。豚とダンスしてる坊さん。錨《いかり》をあしらった老船長の像。万国国旗一覧表。隣りはあめりか煙草 111 の広告画。
郵便棚も置いてある。この酒場へ頼んで、ここを郵便の宛所《アドレス》にしてる各国の船乗りが大分あるとみえる。寄港のたびに立ちよって受け取る仕組なんだろう。手紙や葉書がたくさん挟んである。混雑に紛れて、僕は郵便棚へ近づいて二、三枚手に取ってみた。古いのばかりだ。手垢《てあか》とごみで薄黒くよごれてる。が、これは一たいどうしたというのだ?――酒場の常連はきまってるはずだ。酒番の主人に顔の知れた船員ばかりで、あす出港という晩なんか、「おい、これからちょっと地中海まわりだ。今度はひと
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