、一度手を伸ばした。
『ガタ・エネ・セガレツ? HEY?』
今度は煙草だ。はじめはマッチ、つぎにたばこ[#「たばこ」に傍点]と逆なところに、これも後日|追々《おいおい》判然したんだが、愛すべきリンピイの狡才があった。仕方がないし、それに僕は、すこしでも長くこいつと会話して、出来ることならその「夜のおんな舟」の秘密へ一|吋《インチ》でも近づきたかったから、さっそく「|客間の香気《パフュウム・ドュ・サロン》」のふくろを提出しながら、
『取れ。但し一本。』
『勿論《コース》!』
と燐寸《まっち》を擦《こす》って、そこで彼は、その火の輪のむこうから僕の顔に驚いた。
『HUM! いよう! お前は毎晩ここらをうろ[#「うろ」に傍点]ついてる支那公《チンキイ》だな!』
『YA。ロン・ウウって名だ。』いいことにして僕が答えた。『お前はまた、いつも夜中におおぜい女を連れて海へ出るじゃないか。何しに行くんだ?』
『U−hum !』
リンピイはただ頷首《うなず》いた。が、彼が、いぎりす生れの「決して帰らない迷児《まよいご》」のひとりであることは、その語調で直ぐにわかった。とにかく、ふたりの港の客人ロン
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