黷゚いた一艘の短舟《ボウテ》が、テイジョ河口の三角浪に擽《くすぐ》られて忍び笑いしていた。訓練ある静寂と速度のうちに、一同がそれに乗り移ると、そのままぼうて[#「ぼうて」に傍点]は漕ぎ出して、碇泊中の船影のあいだを縫って間もなく海へ消えた。そして暫く帰ってこなかった。が、帰って来ると、その女群が同じ沈黙と速度をもってボウテから桟橋へ上り、僕の立ってるまえを順々に通りすぎて町のほうへ消えていった。いつものびっこ[#「びっこ」に傍点]の小男が隊長している。今夜も沖を訪問してきた女たち――大きな「?」のなかから一行のあとを見送ってる僕へ、最後に小舟をあがったその小男が接近して来た。
『がた・らい?』
上海《シャンハイ》英語だ。紳士語では、「燐寸《マッチ》をお持ちでしたらどうぞ」――僕が応じた。
『YA。』
そしてまっち《アモルフォス》を突き出した。
すると跛足《リンピイ》リンプ――これはあとから酒場で自己紹介し合って判ったのだが、男は、Limpy Limp なる呼名《よびな》に自発的に返事して、つまりびっこだった――は、ここで一そう、ぴょこんと僕の胸へ飛びつくように現れて、それから、も
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