盾トもいなくてもいいんだけれど、商売の性質上、男のにらみ[#「にらみ」に傍点]の必要な場合もあったし、それに、リンピイは跛足のくせに素晴しく|喧嘩が上手《ハンディ・アト・フィスト》だったから、お婆さんも重宝がって、格別追い出そうともせずにただ顎《あご》だけ預けとくがいいよと言った程度に置いてやっていたのだ。この「マルガリイダの家」の呼び物は、テレサという白熊のような仏蘭西《フランス》女の一夜の身体《からだ》を懸賞に博奕《ばくち》をさせるのだった。だから、いつ行っても寄港中の船員がわいわい[#「わいわい」に傍点]してて、マルガリイダ婆さんの靴下は紙幣束《さつたば》でふくれてた。が、このリンピイとマルガリイダは、お互いにどまでも経済的独立を厳守する夫婦関係――何と近代的な!――だった。と言うより、つまりそれは、彼女が彼に充分な儲けを別《わ》けて与《や》らなかったからだが、そこで当然リンピイは、妻の一使用人として以外に自分だけの内職を持っていた。ここに企業家リンピイ・リンプの非凡な着眼が窺われる。すなわち、第二に彼は、一種の「船上出張商人《ヴェンデドゥル・デ・アポルド》」――英語で謂《い》う
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