\― ship−chandler「しっぷ・ちゃん」――を開業していたのだ。
 夜のりすぼん[#「りすぼん」に傍点]波止場で、僕は一つの不思議を見た――。
 AYE! 闇黒《あんこく》がLISBOAの海岸通りを包むとき!
 各国船員の行列《パレイド》にあるこほる[#「あるこほる」に傍点]が参加し、林立するマストに汽笛がころがり、眠ってる大倉庫のあいだに男女一組ずつの影がうろうろ[#「うろうろ」に傍点]し、どこからともなく出現するこの深夜の雑沓・桟橋の話声・水たまりの星・悪臭・嬌笑・SHIP・AHOY!
 この腐ったインクの海は、何かしら異常な事件を呑んでるに相違ない。波止場の夜気は、僕の秘有《チェリッシュ》する荒唐無稽趣味《ワイルド・イマジネイション》をいつも極度にまで刺激するに充分だ。それが僕の全 being を魅了してすぐに僕を「夜の岸壁」の自発的捕虜にしてしまった。もちろんそこには、何とかして変った話材に come across したいという探訪意識が多分に動いていたことも事実だが、とにかくリスボンでは、今日のつぎに明日が来るのと同じ確実さと連続性において、毎夜の波止場《カイス》が
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