たように、これだって君、あの、この頃産業的に需用の多い「朝飯《あさめし》の食卓で焼麺麭《トウスト》・卵子・珈琲《コーヒー》と一しょに消化してあとへ残らない程度の退屈で幸福な近代結婚生活の小説」の作例には、ちゃんとなってるじゃないか。BAH!
 で、とにかくリンピイの Who's Who へかかる。
 彼の商売は三つから成り立っていた。
 第一にリンピイは、マルガリイダという五十近い妻と一しょに、市の|山の手《バイロ・アルト》に独特の考案になる魔窟《まくつ》をひらいていた。マルガリイダは、CINTRAの古城のように骨張った、そして、不平で耐《たま》らない七面鳥みたいに絶えず何事か呪い喚《わめ》いてる存在で、リンピイの人生全体に騒々しく君臨していたと言っていい。そのうえ彼女は恐ろしくけち[#「けち」に傍点]だったし、自分の思いつき一つで家《ハウス》が流行《はや》ったので、しぜん稼業のことはすっかり一人で支配していて、リンピイは more or less そこの居候《いそうろう》みたいに、波止場《カイス》の客引きだけを専門にしていた。それも、実際マルガリイダ婆さんに言わせると、リンピイなんか
前へ 次へ
全79ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング