C》。上って来て、見せろ。』
 だから、じゃこっぷの中途から救われて、僕と鞄がガルシア・モレノに甲板《アポウルド》した。
 仮死したような大煙突が夜露の汗をかいて、その下で、|船のお医者《シップス・ダクタア》――と言うのはつまり料理番《クック》だ――が、愛玩《ペット》のポケット猿に星を見物させていた。洋隠猿《パケツ・マンキー》はアマゾン流域に特産する小さな小さな猿だ。手に握ると全身すっかり隠れて苦しいもんだから騒ぐし、胸のぽけっとへ入れてやると顔だけ出してあちこち眺めてる。夜は、君の脱いだ靴の奥へ潜り込んでぐっすり眠るだろう。そのぽけっと猿が、肥った料理人《ダクタア》の手の平から星へ向って小粒な皓歯《こうし》を剥《む》いていた。ほかに、僕を「|一体誰だ《フウダ・ヘル》」した無電技師は、士官《オフィサ》らしく船尾を往ったり来たりしていた。こつ・こつ・こつ。Again, こつ・こつ・こつ。鉄板の跫音《あしおと》と自分の重大さに彼は酔っていたのだ。しっぷ・ちゃあん! と喜んだ料理番の大声で、下級員口《ギャングウェイ》が四、五人の水夫や火夫を吐き出した。このXマス近い海の夜中に、上半身裸の彼ら
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