tの凹《へこ》みへへばり[#「へばり」に傍点]ついて、ぜんたい斜めに宙乗りしていた。陸から漕いで来た僕の|はしけ《ボウテ》は梯子《ジャコップ》の下に結び着けてある。それがテイジョ河口の三角波に擽《くすぐ》られて忍び笑いしていた。
――God damn!
LO! 国際的|涜神《とくしん》語がまた僕の嘴《くちばし》を歪《ゆが》めた。なぜって君、夜の港は一めんのインク――|青・黒《ブルウ・ブラック》―― だろう。そこにぴちぴち[#「ぴちぴち」に傍点]跳《は》ねてるのは鰯《いわし》の散歩隊だろう。闇黒《くらやみ》のなかの雪みたいに大きく群れてるのは恋の鴎《かもめ》たちだろう。むこうにちかちか[#「ちかちか」に傍点]するのは、羅馬《ローマ》七丘に擬《なぞら》えて七つの高台に建ってるリスボンの灯だろう。しっぷ・あほうい! と波止場《カイス》のほうから声がするのは、きっとまた、急に責任と威厳を感じ出したどこかの酔っぱらい船長が女から船へ帰ろうとして艀舟《ランシャ》を呼んでるのだろう。
Ship Ahoy! ――そして僕はいま、うす汚ない商品鞄をさげてこのガルシア・モレノ号へ這いあがるべく努力し
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