スDOGのよろこびが僕の感情だった。
 さきへ進むまえ、忘れるといけないからちょっとここで断っておきたいのは、リンピイと彼の周囲に、僕が支那人《チンキー》ロン・ウウとして知られていたことだ。これは何も、ことさら僕が国籍を誤魔化《ごまか》したわけではなく、全体、はじめて口を利いたとき、リンピイが頭からお前は支那公《チンク》だろうと決めてかかって来たので、正誤するのも面倒くさかったし、その要もあるまいと思って黙っていたら、リンピイが勝手にそう信じこんで、同時に僕も、いい気になって出放題《でほうだい》な名乗りを上げてしまったのだ。Long Woo ――支那にそんな名があるかどうか。なくたって僕は困らない。要するにリンピイのそそっかしいのが悪いのだ。で、このとおり、支那人なるアイデアは彼が思いついたことで、僕はただ、極力否定するかわりに、無言によってごく受働的にそれを採用したに過ぎないから――。
 だからリスボンの波止場では、全的にそう受け入れられていた支那公《チンキイ》ロン・ウウの僕だった。一つの社会を下から見るのに、これはかえって好都合だったかも知れない。と同時に、ある集団生活を知るために
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