ヘ、どうしてもいくぶん密偵的なこころもちでそこへ這入り込んで、現実に何かの役割《ファンクション》を持たなければ駄目だ。この意味で、リンピイ・リンプと彼の仕事は、僕の上に、じつに歓迎すべきLUCKの微笑だったと言ってよかろう。
YES。港だから、毎日船がはいる。その入港船のどれもへ、間もなく支那人のしっぷちゃん[#「しっぷちゃん」に傍点]ロン・ウウが、商品鞄と無表情な顔を運び上げるようになった。支那人は恐ろしく無口だった。ものを言う必要がなかったのだ。いつも黙って鞄を拡げて、眠そうにハッチの端に腰かけていさえすればあとは品物自身が饒舌《スピイク》して面白いように売れて往った。ほんとに面白いように売れていった。海の住民――それは不具的に男だけだが――また、その男だけのために悦《よろこ》ばれる種々の他愛ない日用品――タオル・しゃぼん・歯みがき・小刀《ナイフ》・靴下・その他・それぞれにリンピイの細工がほどこしてある――それから、好運のお守りTALISMANの数かず――すべていずれ後説――そして、このしっぷ・ちゃんの支那人の訪問した船へは、必ずその夜中にリンピイのおんな舟が出張して、これも帰り
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