謔チておかなければならない。
 じっさいリンピイは、ついこないだまで、この両方の「しっぷ・ちゃん」を一人で兼ねて来ていたんだが、比較的繊細――何と貴族的に!――な彼の体質と健康がその激労を許可しなかったし、それに、幾分財政的余裕も出来かけたので、誰か「|鳩の英語《ピジョン・イングリシ》」が話せて自分の片腕になるやつ[#「やつ」に傍点]があったら、はじめの日用品のしっぷ・ちゃんだけそいつに任せて船の探りを入れさせることにしてもいい――ちょうどこう考えてたリンピイの眼前へ、幸運にも僕という「夜の波止場《カイス》の常習浮浪犯」が現れたのだ。
 この、リンピイと僕――ジョウジ・タニイ――との最初の劇的面会はあとの頁に入れるつもりだが、一口には、彼が好機――僕にとって――を提出《オファ》して、僕が即座にそれを把握《グラブ》したほど、それほど勇敢で利口《スマアト》だったというだけのことだ。じゃ、一たい何だってそんなことが「好機」かと言うと、これなしにはこの話も存在しなかったろうし、第一、僕としちゃあ得がたい冒険《アドヴェンチュア》を実行したわけで、全くのところ、さんざ歩き廻った末やっと棒にぶつかっ
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