@脱帽。国歌だ。
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ナガタニ――イ!
オダア!
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 永谷《ながたに》は254。
 織田《おだ》は257。
 沖田《おきた》。258。
 南部《なんぶ》。255。
 人見《ひとみ》。265。
 あれは誰だ?
 667――加奈陀《カナダ》のウィリアムス。
 553はあめりかのパドック。
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日光・群集・筋肉・国旗。
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 五色の輪の踊るオリンピックの旗。
 あ! あそこへ行く――。
 いま誰かと立ち話ししている超人ヌルミ。
 おなじく人間機関車のリトラ。
 ハアドル、それから走り巾とび。
 ホップ・ステップ&ジャンプ。
 257――わあっ! 日本の織田だ!
 結果、一五二一。
 セレモニ・オリンピイク!
 オダ・ヤポンの声。
 日章旗! 涙!
 君が代が和蘭《オランダ》の空へ。
 ああ、スポウツに藉《か》りて白熱する帝国主義!
 帝国主義礼讃。
 勝つことの礼讃。
 少年のような愛国心!
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日光・群集・筋肉・国旗。
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   おらんだ国巡遊手引き

 自序として、和蘭《オランダ》に関する必要な知識を、まず二、三左に列挙しよう。
 ハランド――どうも独立国らしく思われる。地理については、地理の本の和蘭《オランダ》の条参照のこと。ここではただその地形を略説せんに、概して土地、海面より低く――他の多くの国は幾らか海よりも高きを原則とす――一望さえぎるものなき平原にして、たまたま丘、もしくは山と見ゆるものあるは、怠惰なる牛の座して動かざるなり。また時に遥かに連山の巍峨《ぎが》たるに接することあれど、すべて雲の峰なれば須臾《しゅゆ》にして散逸するをつねとす。
 気候。驟雨《しゅうう》多し。青天に葉書を出しに行くにも洋傘《コウモリ》を忘るべからず。
 歴史。歴史の本に詳し。
 名所。国をあげて遊覧客のためにのみ存在す。
 国民性。偉大なる饒舌家。老若男女を問わずよく外国語――日本語以外――をあやつり、即時職業的ガイドに変ず。自己ならびに過去を語るを好み、向上心に乏しく、安逸と独逸《ドイツ》風のビールと乾酪《チーズ》をむさぼる。人を見ると名刺をつき出し、署名を求める癖あり。皮膚赤く、髪白く――小児も――顔飽くまでふくれ、温順なる家畜の相を呈し、世辞に長
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