踊る地平線
虹を渡る日
谷譲次
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)巴里《パリー》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)それこそ|どしん《バンプ》と
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「足+宛」、第3水準1−92−36]《もが》くように、
〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ
(例)〔Tre`s chic !〕
アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください
http://aozora.gr.jp/accent_separation.html
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とりっぷ・あ・ら・もうど
BUMP!
ロンドン巴里《パリー》間航空旅行。
一九二八年――A・D――七月はじめ、それこそ|どしん《バンプ》と押し寄せてきた|暑さの波《ヒイト・ウエイヴ》に揉《も》まれて、山高帽と皮手袋と円踵《まるかかと》の女靴と、石炭とキドニイ・パイと――つまり老ろんどんそれじしんが、影のない樹立《こだ》ちも、ほこりの白い街路も、商店の軒覆《オウニング》の下をつたわっていく大男の巡査も、みんな一ようにまっくろなはんけち[#「はんけち」に傍点]で真黒な汗をふきながら―― now, つまり、珍しくあつい以外には、まず、しごく平和な夏の英都《ろんどん》の或る日の正午ちかく、詳しく言えば午前十時四十五分だった。いまや自動車の急流ひきも切らないウェストミンスタア橋の方角からあれよ[#「あれよ」に傍点]という間に一台駈けぬけてきたTAXIが、リジェント街とチャアルス街の角にぴたりと静止すると、そこの石造建築物のまえに手荷物とともにひらりと地に下り立った男女の東洋人があった。
旅装と覚悟ここにまったく成り、勇気りんりんとしてあたりを払わんばかり――AHA! 言うまでもなくそれは、これから巴里《パリー》へ飛ぼうとしている私と彼女だった。
とまあ、思いたまえ。
BUMP!
物語のいとぐちである。
さて――。
そこで、くだんの石造建築物の正面階段を登りながら、出来るだけ悠然と天を仰ぐと、空気の層がやたらに青く高く立って、テムズの河畔《エンバンクメント》にはずらり[#「ずらり」に傍点]と木かげに駄馬がやすみ、駄馬に蠅《はえ》が群
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