烽ネい。たしかに坊やのおもちゃのオフネだ。それにしても、何てまあ横に広い坊やのオフネだろう!
 ドウヴァはいそがしい。灰色の軍艦もむこうに海の陽炎《かげろう》に包まれている。
 あ! なかま[#「なかま」に傍点]だ! 三台の飛行機! 二つは上に、ひとつは下に。AH! 殷賑《いんしん》をきわめる空の交通整理よ! 行ってしまった。
 BUMP! 空の波だ。
 一同はっ[#「はっ」に傍点]として「うう!」と唸る。
 BUMP!
 UUGH!
 BUMP!
 UUGH!
 しばらくがぶり[#「がぶり」に傍点]がつづく。ボウイが紙に書いて苦悶中の女客へ見せてまわる。
 Bumps will soon be less.
 同じ悪魔でも、やはり女のほうはすこしデリケイトに出来てるらしい。いぎりすの奥さんなんか、けっして下を見ないように真正面に眼を据えたきりだ。お婆さんは相変らず新聞を読み、商人はしきりに書類をしらべ、私は首をのばしてふらんすの海岸線を待っている。
 すると、出てきた。
 くっきりとした地と水のさかい。屈折する陸の進出と、海の侵蝕。仏蘭西《フランス》の浜は赤土の露出だ。それに白い浪がよせている。
 この絢爛《ゴウジャス》な感情・王者のこころ。
 私の全神経がぷろぺらとともにしんしん[#「しんしん」に傍点]と喜悦の音を立てる。
 百姓家。一つ光る湖、NO! 硝子《ガラス》窓だ。
 NOW OVER Le Touquet.
 機は早い。
 もう仏蘭西語の地名。
 BUMP!
 UUGH!
 NOW OVER Abbeville.
 巴里《パリー》は近い。向うむきの雲先案内《パイロット》の首がますます太くなる。
 君! もっともっとスピイドを出したまえ!
 蟠踞《ばんきょ》する丘と玉突台のような牧場と。
 部落。
 共有地。
 並木。
 小市街。
 無視する。
 黙過する。
 抹殺する。
 やがて巴里――異国者の開港場。
 その巴里が、2・30PMのブウルジェが、ふたたび「社会」が人性が生活が、いまぐんぐん[#「ぐんぐん」に傍点]機の下に盛れあぶってきている。
 やあい! 子供が走ってるぞ! ふらんすの子供が!
 踏切りに荷馬車と人が重なって、汽車の通りすぎるのを待ってらあ。
 その上を機は草原の中空へ――ブウルジェ飛行場だ。
 虹の橋のおわり。悪魔ももとの人間に還元しな
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